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反レイシズム関連を中心に適宜更新します。


by ryangyongsong

小池百合子都知事による関東大震災時の朝鮮人虐殺への追悼文拒否のどこが問題か(2)――「ヘイトスピーチはジェノサイドにつながる」を実践的教訓とするために(下)

 前回私は次のように書きました。
(前回は、関東大震災時の朝鮮人虐殺が、庶民による自警団によって行われたということを紹介しています)

そもそも朝鮮植民地支配という暴力的他民族抑圧は宗主国のレイシズムなしに決して正当化できなかった。それは植民地支配を通じて煽られた。特に三一独立運動後は「不逞鮮人」等のヘイトスピーチがメディアで盛んに煽られていた。
 だが虐殺の要因を庶民のレイシズムだけに還元することはできない――そうでなければどうして他の時期に同様の虐殺が起きなかったのか。庶民のレイシズムを虐殺に結びつけた具体的条件こそ解明されねばならない。


 そう、問題は庶民のレイシズムを虐殺に結びつけた具体的条件なのです。

 (もし差別をジェノサイドに発展させた社会的条件が明確にならなければ、朝鮮人虐殺がなぜ1923年9月に起きたのか、説明がうまくできません。地震パニックでないことは当時横浜中華街でジェノサイドが起きていないことから明らかです。これら点については、梁英聖『日本型ヘイトスピーチとは何か――社会を破壊するレイシズムの登場』(影書房) に詳しく書きました。第三章です

 いったい何が差別をジェノサイドに結びつけたのでしょうか。それは国家の行動でした。

 ポイントは国家の振る舞いにある。朝鮮人虐殺は国家がヘイトスピーチを組織して虐殺を煽動したが故に起きたジェノサイドだった。国家が差別・暴力・虐殺を煽動する場合には本当に「ヘイトスピーチはジェノサイドにつなが」ってしまう。これこそ今もっとも強調されるべき点だ。

 90年以上前の朝鮮人虐殺があれほど大規模になってしまったのは、軍隊と警察が率先して朝鮮人虐殺を行い、国が戒厳令を出したからです。

 差別が偏見のままにとどまるのか、あるいは傷害や放火や殺人はてはジェノサイドといった暴力に発展するかのカギを握るのは、国家であり、政治空間である、という歴史的事実。
 これこそが、小池百合子知事の追悼文とりやめの本当の危険性を理解するカギなのです。


 では、続きをお読みください。





■今日風に言えば、関東大震災時の朝鮮人虐殺(以下、朝鮮人虐殺)は、ヘイトスピーチ(差別煽動表現)がジェノサイドにつながった歴史的事件だったと言える。問題は「朝鮮人が放火している」等の流言に過ぎないヘイトスピーチが、なぜ・どのようにしてジェノサイドにつながったのかである。まず前回(上、2015年6月13日号=3210号掲載)で証言を紹介しながら指摘した通り、庶民が無辜の朝鮮人の殺害に手を染めた要因には植民地支配を通じて培われた庶民のレイシズム(民族差別)の高まりがあった。しかしそれ以上に重要だが見過ごされがちなのは、朝鮮人虐殺は国家がヘイトスピーチを組織した結果引き起こされたという点である。具体的には国家がヘイトスピーチを公認し、違法性が強く疑われる戒厳令の口実に利用し、なおかつ組織的・積極的に国内外に伝播させたのである。前回同様、姜徳相著『関東大震災・虐殺の記憶』(青丘文化社)を頼りにこの側面についてみていこう。

東京付近ノ震災ヲ利用シ、朝鮮人ハ、各地ニ放火シ、不逞ノ目的ヲ達成セントシ、現ニ東京市内ニ於テ爆弾ヲ所持シ、石油ヲ注ギテ放火スルモノアリ。既ニ東京府下ニハ一部戒厳令ヲ施行シタルガ故ニ、各地ニ於テ充分周密ナル視察ヲ加ヘ、鮮人ノ行動ニ対シテハ厳密ナル取締ヲ加ヘラレタシ(九三頁。九月三日午前六時、内務省警保局長後藤文夫発信、各地方長官宛)

 周知の通り、戒厳令とは軍隊が国家の一部または全部を支配することを許す非常法であるが、本来「臨戦か内乱」のどちらかでなければ発布できない。姜氏は警視総監・赤池濃の証言から「飢えた国民の圧力が国家の安全をおびやかすかも知れないという恐怖感」と「一歩対策を誤れば、いかなる「不祥事」(異動)がおこるかも知れない切迫した危機感」が読み取れるとし、戒厳令発布は治安当局者らの強い要請によって違法異論を承知で押し切られたとする。震災で「違法の戒厳令を強行するため、少しでも名分をそえるためのまったくの口実として利用したのが「朝鮮人暴動説」であったのであろう」(四四頁)。そして実際に被災地では官憲がメガホンや張紙で朝鮮人へのヘイトスピーチを積極的に伝播した。つまりは事実上、国家が「朝鮮人は国の敵」であると宣言し、敵と戦争するよう国民に呼びかけたのと変わらない。
 さらに国は警察・軍隊を通じて直接組織的に朝鮮人を虐殺し、自警団を組織させ庶民に虐殺させた。前回(上)冒頭で引いた虐殺を記録した日記も、陸軍の習志野収容所に収容されていた朝鮮人を、軍隊が周囲の村の自警団に「払下げ」て虐殺を下請させた事例だった。そして注目すべきは国による虐殺が、庶民による虐殺を助長煽動する点である。

東京府下大島にゆく。小松川方面より地方人も戦々きお々々(兢々)とて、眠りもとれず、各々の日本刀、竹やり等を以て、鮮人殺さんと血眼になって騒でる。軍隊が到着するや在郷軍人等非常(非情か)なものだ。鮮人と見るや者も云わず、大道であろうが何処であろうが斬殺してしまふた。そして川に投げこみてしまう。余等見たの計りで二十人一かたまり、余人、八人、皆地方人に斬殺されてしまふていた。余等は初めは身の毛もよだつ計りだが段々なれて死体をみても今では何とも思わなくなった。(一一〇頁。久保野日記)

 軍隊が出動したことが引き金となって自警団による虐殺が起きている。なお姜氏は続けて「戒厳軍が主導にたち、警察と自警団、一般市民のその統率下において「暴徒鎮圧ニ任セム可キ」国民連合ができていったことは容易に想像できる」としている。
 当時虐殺に加担した庶民が金鵄勲章を貰えると思った、という証言は少なくない。その理由は国自らが虐殺し、差別・虐殺を上から煽動したからであろう。
 以上みたような朝鮮人虐殺の歴史から私たちが引き出せる実践的教訓は何だろうか。まず何よりも国や公的な政治空間におけるレイシズムは市民社会のレイシズムを極めて強力に煽動するということである。高校無償化除外をはじめ在日朝鮮人差別を率先しているのは国だ。そして国は朝鮮人をマイノリティであると公認せずレイシズム実態調査さえ行わない。石原慎太郎「三国人」発言を引くまでもなく政治家によるヘイトスピーチも野放しだ。嗤いながら「殺せ」と叫ぶ、あれほど醜悪なヘイトスピーチが二〇〇〇年代後半から街頭に登場し頻発しているのは、国と政治空間からの強力な差別煽動なしにはありえないだろう。
 さらに国がヘイトクライム(差別犯罪)を放置することが差別・暴力を助長することになる。(上)冒頭で引いた隅田川での虐殺では巡査が「やるな」と明言せず黙認した結果、GOサインが出たとみなした庶民によって集団殺害が起きていた。現在のヘイトスピーチが国によって放任され、まして警察の目前で朝鮮人に対する虐殺煽動が実行されていること等は国が組織されたレイシズム暴力に対してある種の正当性・合法性を与え、差別を助長しているのだ。
 去る五月二〇日に「関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任を問う会」主催の院内集会が開かれた。大変貴重な取り組みだがメディアの注目は薄い。当日ARIC代表として挨拶させて頂いたが、朝鮮人虐殺の歴史的記憶をめぐる闘いは国の歴史否定に抗するだけでなく、国による差別煽動の危険性を明瞭にする点で今日一層重要な実践的意義を持つようになった。ARICとしても教育を通じて歴史否定に抗してゆきたい。
(反レイシズム情報センター〔ARIC〕代表)

(以上です。)
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by ryangyongsong | 2017-08-28 15:00