反レイシズム関連を中心に適宜更新します。


by ryangyongsong

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みなさん


ブログを半年以上もほったらかしにしていましたが、再開することにします(この間、拙著の執筆と、修士論文の提出に加え、あるトランプ主義者によってARICが攻撃を受けました。それへの対処のせいで、更新がままならなかったのです)。


さて、周知の通り1月27日、就任直後のトランプ米国大統領が、シリアはじめ難民受け入れ停止や、複数特定国への入国ビザ(査証)発給停止などを盛り込んだ大統領令に署名しました。
によると要点は次の通り。

  • 米難民受け入れ事業を120日間停止。
  • 「相当の修正」を加えるまではシリア難民の受け入れを禁止。
  • イラク、シリアを含む「懸念地域」からの入国を90日間停止。この「懸念地域」にはほかにイラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンが含まれると報道されている。
  • 宗教弾圧を理由にした難民申請の検討を優先。ただし申請者が母国で宗教的少数者の場合に限る。
  • 2017年の難民受け入れ上限を5万人に制限。これはオバマ政権下の上限の半分以下。


 大統領令は「外国テロリストの入国からの米国の保護」と題されていました(朝日新聞)。トランプ氏は2015年の選挙時から移民・ムスリムに対し下記のようなヘイトスピーチを繰り返しきたわけです。トランプ氏の大統領令は、これら差別煽動を単なる「スピーチ」でなく、本当に米国大統領として部分的に実行しようとするものです。


ARICのブログより引用


移民・難民

・「メキシコはベストではない人々を送り込んでいる。麻薬や犯罪を持ち込むやつらだ。彼らはレイピストだ、中には善良な人もいるかもしれないが」

・2015年6月16日、出馬会見にて。

・(シリア難民への対応について)「もし私が勝利したら、彼らは帰国することになる。彼らには帰ってもらうよ、本当に」

・2015年9月30日の選挙集会にて。

ムスリム

・(イスラム教徒をデータベースに登録すべきだと思うかとの質問に)「それは間違いなくやるつもりだ。絶対にやる。データベース以外にも、たくさんのシステムがあるべきだ」。

・2015年11月19日、記者からの質問に対して。

・「ドナルド・J・トランプは、何が起こっているのかをわが国の指導者らが把握できるまで、イスラム教徒の入国を全面的かつ完全に禁止することを呼び掛ける」

・2015年12月7日のカリフォルニア州の銃乱射事件を受けて


 周知の通りこの大統領令には米国内外から猛抗議が寄せられ、既にニューヨーク州の連邦裁判所が28日に大統領令の一部執行を一時的に停止することを認めているとのことです(ハフィントンポスト1月29日 )。さらに永住者・グリーンカード保持者に対しても入国制限執行を猶予するとの報道があります(AFP)。

 大統領令が、難民条約の精神に反するものであること、しかも国籍・民族・生地・宗教に基づいた差別(レイシズム)であることは、言うまでもないでしょう。


 トランプの米国については、ほかにも言うべきことが多いですが、今日ここで言いたいことはただ一つです。それは今起きている一連のトランプ現象は米国の「日本化」現象というべきものだ、ということです。


 昨年12月末に出した、拙著『日本型ヘイトスピーチとは何か――社会を破壊するレイシズムの登場』(影書房)には次のように書きました。


 米国でトランプがムスリム入国禁止を主張したり、フランスでFN〔国民戦線〕が台頭しつつあることは、たしかに極右が政治空間に浸透しつつあることと、それによる差別煽動が深刻であることを示している。だが注意すべきは、これらの現象は、むしろ「日本化」というべきものであるということだ。
 レイシズム規制も歴史否定規制も極右規制も何もない、先進国で唯一のレイシズム自由国家日本のように、欧米が徐々に変質しつつあるのだ。(270ページ)


 この文章はもちろんトランプ氏が大統領に当選する前のものですが、現時点では上の指摘を修正する必要を感じていません。

 もしかしたら、日本のみなさんはトランプ現象をみて、「ああ、日本もこうなるかもしれない」と、極右やレイシズムの脅威に、危機感を抱くのかもしれません。
 それはそれで、正しいし、貴重です。レイシズムは確実に社会を破壊します。トランプ氏がヒスパニック系やムスリムへのレイシズム煽動を使って「人気」をとり、大統領にまで当選してしまったこと、そのことでいま米国では、暴行や放火などヘイトクライム(レイシズム暴力)が吹き荒れています(ARICブログ に学生のレポートがあります)。トランプによる米国の破壊は今後、こんなものでは済まないでしょう。

 しかし、「トランプの次は日本だ」と言うならば、それは大きな誤解です。逆です。日本のほうがレイシズム政策(や反レイシズム政策の無さ)に関して言えば、はるか「先」をいっています。「米国もようやく日本に追いついてきたか」と私は考えています。

 なぜそういえるのか。これから少しずつ、不定期になりますが、書いていこうと思っています。

 在日コリアンや難民に関連した点について、あらかじめ例を挙げておけば、

  • 難民政策。米国は毎年万単位の難民を受け入れているが、日本は基本的に受け入れず(2015年度で27名、2014年度で11名)。
  • レイシズム政策。例えば日本の学校教育制度は①外国籍者と②外国人学校を二重に排除している。
  • 外交関係を口実に正当化されたレイシズム。朝鮮高校だけ高校無償化から除外。朝鮮学校への補助金さえ恣意的に打ち切り。
  • 永住者・特別永住者に対してもなぜか再入国許可を課し出入国の自由を制限。
  • 米国の公民権法に匹敵する反レイシズム政策はゼロ。マイノリティ政策も存在せず。差別統計も存在せず。マイノリティの公認もなし(アイヌ除く)。
  • 外国人政策不在のまま、外国籍者を広範な自由裁量により専制的に管理する人権不在の入管法が、事実上外国人政策として代用されている。
  • 研修生・実習生制度。時給300円ともいわれる超低賃金・過酷労働に縛り付けられている外国人労働者を大量に導入・送還可能な、事実上の人身売買だと批判される公的な制度が存在する。

 などが挙げられるでしょうか。

 あらかじめ言っておきます。米国を礼賛するつもりはまったくありません。警官による黒人射殺事件の相次ぐ米国のレイシズム状況は酷いものであり、また反レイシズム政策や規範が十分だとも思いません。

 しかし上に挙げたような点では決定的な違いがあります。この点は拙著『日本型ヘイトスピーチとは何か――社会を破壊するレイシズムの登場』(影書房)全体が、特に第四章と五章でこの点に関連する問題提起をしています。

 以後、時間をみつけて、少しずつ、書いていきたいと思います。

  梁英聖

追伸

 拙著がこのたび重版されることとなりました。品薄状態がつづき、書店やネット販売サイトで品切れが続いていたようですが、もう重版できたとのことです。どうぞよろしくお願いします。
 ブログを更新しそびれたので、以下、拙著の目次をアップしておきます。(以下、目次)






◆『日本型ヘイトスピーチとは何か』 目次◆

序章 戦後日本が初めて経験するレイシズムの危険性を前に

第1章 いま何が起きているのか――日本のヘイトスピーチの現状と特徴

・二〇一三年六月 東京・大久保にて 
・ひどすぎてありえない差別の登場 
・さまざまなタイプの物理的暴力
――街宣型・襲撃型・偶発的暴力 
・あらゆるマイノリティと民主主義の破壊 
・社会「運動」としてのヘイトスピーチ
・ヘイトスピーチのどこがどうひどいのか
――「見える」ひどさと「見えない」ひどさ
・反レイシズムというモノサシ(社会的規範)の必要性 

第2章 レイシズムとは何か、差別煽動とは何か 
        
――差別を「見える化」するために 

1 レイシズムとは何か――レイシズムの「見える化」 
2 差別煽動とは何か
――レイシズムの発展を見えるようにする 
3 マイノリティとしての在日コリアン
――レイシズムと差別煽動の不可視化がもたらすもの

第3章 実際に起きた在日コリアンへのレイシズム暴力事例

1 関東大震災時の朝鮮人虐殺(一九二三年九月~)
2 GHQ占領期の朝鮮人弾圧事件
(一九四五年八月~一九五二年) 
3 朝高生襲撃事件
(一九六〇年代~七〇年代) 
4 チマチョゴリ事件
(一九八〇年代~二〇〇〇年代前半) 
5 ヘイトスピーチ――在特会型レイシズム暴力
(二〇〇七年~現在) 

第4章 欧米先進諸国の反レイシズム政策・規範から
      日本のズレを可視化する 


1 人種差別撤廃条約型反レイシズム――国連と欧州(ドイツを除く)
2 ドイツ型反レイシズム 
3 米国型反レイシズム 
4 欧米先進諸国の反レイシズムと日本の現状 

第5章 なぜヘイトスピーチは頻発しつづけるのか?――三つの原因 

1 反レイシズム規範の欠如 
2 「上からの差別煽動」 
3 歴史否定 

第6章 ヘイトスピーチ、レイシズムをなくすために必要なこと 

1 反レイシズム規範の構築――反レイシズム1.0を日本でもつくること
2 反歴史否定規範の形成
3「上からの差別煽動」にどう対抗するか?
おわりに
――反レイシズムを超えて


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by ryangyongsong | 2017-01-31 08:00