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反レイシズム関連を中心に適宜更新します。


by ryangyongsong

6/24東京女子大学授業QA②差別を見たら「110番」を!(続き)

6月24日の東京女子大でお話しした時に、頂いた質問への回答の続きです。
Q「「共通言語」とは、つまりどのような認識を持てば良いのでしょうか? ①人権に関しては、侵害されたと感じること、また人権が侵害された際に本気で怒るような感情を持つようにとらえるということで合っていますでしょうか? ②、③も同様に考えてよろしいでしょうか?」
じつは、この問い(はじめ皆さんが寄せてくださった質問)に対して、どうやって答えたらよいか、悩み続けています。内容的に簡単でなく、論点も多いのですが、何よりいろんな答え方ができるからです。
前回は「反レイシズムという「共通言語」」について体系的な説明を試みました6/24東京女子大学授業QA①「反レイシズムという「共通言語」とは?」。しかしこれだけでは小難しくて、何が言いたいか伝わりにくいように思いました。

そこで今回は前回とがらりと違う角度から、思い切ってシンプルに答えてみます。

「共通言語」をつくるというのは、要するに、差別を見たら「110番」通報をするぐらい、差別=犯罪という規範が、社会で常識になること、です。

1.「共通言語」とは?

私は皆さんの前で、「反レイシズム(反民族差別)という「共通言語」」を日本社会に生きる皆が身に付けねばならない、と言いました。言いたかったことのポイントを三つ書きだすと次のようになります。

①(モノサシを身に着ける)何がレイシズムか見分けられる
②(アクション)レイシズムに遭遇した場合、何らかの形で声をあげる。
③(社会規範の成立)その積み重ねの結果、社会一般に「レイシズムは社会を破壊するので無条件になくすべき」という考えを常識化させる(社会的規範を成立させる)。

反レイシズムという「共通言語」の成立とは、端的にいえば、社会レベルで反民族差別規範が成立することです。日本が95年に批准した人種差別撤廃条約が義務付けるレイシズム(民族差別)禁止法制定が一つの指標となります。みんなでその状況をつくりあげること。これが私の言いたかった「共通言語」です。

こう書くと、縁遠いものに思えるかもしれません(特に①②と、③の間にかなりの開きがあるように思われても仕方ありません)。しかし同じことを差別でなく、犯罪に置き換えて考えてみてましょう。

①(モノサシを身に着ける)何が犯罪か見分けられる。
②(アクション)犯罪に遭遇した場合、何らかの形で声をあげる。
③(社会規範の成立)「犯罪は無条件になくすべき」という考えの常識化。

 こう書いてみると、不思議でもなんでもないはずです。なぜなら犯罪の場合は、「犯罪=悪」という社会規範がすでに成立しているから。だから①②③は説明が不要なほど常識化しているわけです。

 差別も犯罪と同じです。というより差別は欧米では犯罪/違法化されていることは、。授業でお話しした通り(欧米先進諸国ではだいたい半世紀前に既に基本となる差別禁止法をつくっています)。このような「共通言語」が存在しない日本がおかしいのです(だから遊び半分でマイノリティの命を弄ぶヘイトスピーチ=犯罪が頻発するのです)。

 犯罪を見たら、110番通報しますね。
 それと同じです。
 差別を見たら、110番通報する/できる。そういう社会にしていく。これが反レイシズムという「共通言語」をつくる、ということです。

 授業で私が、差別を目撃した時に本気で怒るべきという趣旨のことを言ったのは、この①と②にかかわっています。差別が起きた時、周りの人間が無視せずに、だれか本気で抗議する人がいた場合、それは差別を行った者が次に差別を繰り返すことの抑制になりますし、周りに「差別は公衆の面前で怒りを買って当然の恥ずべき行為だ」というメッセージを送ることにもなります(そのことでマイノリティにも「あなたは悪くない」というメッセージを送ることもある程度は可能)。

 しかし、それだけでは実は不十分だということは、犯罪の例を考えてみればわかりますね?
 その場でたとえ犯人を取り押さえたところで、110番通報して警察=国に対処してもらわないとダメですから(③が必要)。

 この、110番通報(国の犯罪調査)⇒警察の出動(国の犯罪抑止)というラインこそ、日本に欠けているものなのです。つまり、
 差別の110番通報(国の差別調査)⇒国の出動(国の差別抑止)
 というラインが、どこにもない。
 逆に言えば、これを社会がどうやって知恵を絞って(やる気ない)国会議員を働かせてつくらせるか、ということが問題なのです。

 しかしこれでも、「では、具体的にどうしたら?」という疑問が生まれると思います。

 そこでもっと具体的に「共通言語」をつくる方法を提案します。少しの良心があれば、誰もができる、極めて簡単なことです。

(その一つは実は、6月24日に受講生の皆さん自身が、当日に誰にも教わらぬまま既に実行したことなのですが、それについては機を改めて説明します。)

2.反レイシズムという「共通言語」の第一歩は、「差別を見たら110番」(NGOへの通報)

(忘れずに言っておけば、反レイシズムという「共通言語」をつくりあげる取り組みに「王道」はありません。日本社会の構成員皆が、一人一人頭を悩ませて考えて実践する以外にありません。ここで書くことは一つの提案です)

 あなたがレイシズムを目撃したら(あるいは「ひょっとしたら差別かも」と疑っただけでも)次の方法を試みてください。

①(NGOへの110番通報)NGOや弁護士など専門家に通報する
②(証拠保全)できるだけ差別の証拠をのこす(記憶による証言でもOK。できればスマホなどで写真・動画・音声を撮るのが良い。手帳やメールにメモを残すのもよい)

 です。

①について。
 レイシズム(差別)事例を見かけたら、ぜひARICなど反レイシズムに取り組むNGOに通報してください。たとえば、
 ・留学生やマイノリティが住宅差別に遭った
 ・友人の在日コリアンがバイト/就活の面接を断られた
 ・学校で外国にルーツがあることを理由に(中国人やブラジル人だ、など)いじめられていたことをみた
 ・差別的なポスター・掲示物をみつけた(「外国人を見たら110番」など)
  等々…

 要は、「差別を見たら(NGOに)110番」です。これは日本では決定的な意味を持ちます。
 なぜなら国・自治体が差別撲滅に取り組まず、深刻な差別が蔓延していることを公的な調査もせず否定し続けているからです(ヘイトスピーチについてだけようやく今年3月に調査結果が公表)。そういう国・自治体の「深刻な差別はない」という言い逃れを否定するには、NGOに差別情報を集積させることを通じて、どれほど差別があるのかを「可視化」させる以外に方法がありません。

 たった一件の通報でも、NGOが集計すれば「カウント1」として記録されます。それがなければ埋もれていたかもしれない事例「1」を、皆さんの通報が、日本のレイシズム実態「可視化」に結びつけるわけです。

 このように差別の110番通報は、レイシズム(差別)を社会的に「見える化」させる第一歩となります(反レイシズムの「共通言語」のうち②アクションを③社会的規範に結びつける社会的回路をつくりあげる第一の機能を果たします)。

 また、具体的な解決に結びつけることもできます。
 (たとえばARICでは差別の通報をもとに、インターネットの評価サイトに放置されていた、インドカレー料理店を誹謗中傷するヘイトスピーチの通報を受けて、サイト運営者に抗議して、削除させたことがあります。また通報ではありませんが、学生ボランティアチームの調査活動によって、京都大学生協発行の物件紹介冊子に掲載されていた「留学生入居可否」マークを明るみにしました。これも削除させています(こちらを参照 ))

(なので、もし差別を見たら、私たちARICの情報提供窓口 まで通報してください)

 そのため②のレイシズムの証拠を残すことも重要です。

 このように「差別を見たら110番」が今後、徐々に広まり、それによる深刻な差別実態が社会問題化され、また解決事例も増えていけば、それが反レイシズムという「共通言語」をつくることになるでしょう。さらに差別禁止法が国によってつくられ、本物の「差別110番」が制定されれば、差別=犯罪という常識は成立するでしょう。

 以上です。(なおここでは自分が差別被害に遭っていない場合を想定しています。ご自身が差別被害に悩んでいる方の場合、相談窓口にご連絡ください。ARICでもプライバシー厳守で相談を受け付けています し、各都道府県にある弁護士会にも相談窓口があります )。

 「共通言語」をつくりあげるという実践の具体案を提案してみました。

 しかし、これだけでも、まだピンと来ない方も多いと思います。
 そこで次回は、皆さんが私に教えてくださった差別事例を紹介しながら、解説をしてみたいと思います。

(以上)

(追記)

上の①と②に、

③(あとは自分のできる限りで)NGOや弁護士など専門家といっしょに自分も対策を考える

を追加しても、当然よいわけです。

また以下のことはNGOと市民が今後行うべきことですが、次のことが追加できます。

④(国・自治体への通報)NGOと共に国・自治体に差別情報を通知し、人種差別撤廃条約を履行するよう求める
ことも当然できます。しかし日本の政府・自治体は極めて保守的なので残念ながら実効的なアクションが期待できません。
その場合は、

⑤(国・自治体の人種差別撤廃条約不履行を可視化させる)国・自治体が動かないことをマスコミなどに働きかけて社会問題化する
ことが当然できます。

こういうことを通じて、人種差別撤廃条約が求める人権規範のレベルと、日本の国・自治体が深刻なレイシズム状況を放置しているという怠慢のギャップをあらゆる手段をつかって可視化=社会問題化することが求められています。

今回書いた、差別情報の収集は、この第一歩として位置づけることができます。


by ryangyongsong | 2016-07-15 19:53