問1.次の例のうち、あなたが差別に当たると考えるものに○を、そうでないものには×をつけてください。【○×チェック】
問題 | 回答欄 |
1.在日コリアンのAさんが日本人のBさんから暴行を受けた。 | × |
2.在日コリアンのAさんが日本人のBさんから暴行を受けた。Bさんはその時「反日韓国人!」と叫んでいた。 | ○ |
3.日本人のCさんが日本人のBさんから暴行を受けた。Bさんはその時「お前は反日韓国人と同じだ!」と叫んでいた。 | ○ |
※大前提としてこの設問は、一般的に人種差別撤廃条約というモノサシに照らして、差別とそれ以外の区別を区別することを目的としています。差別とはなにか?という問いを思想的・哲学的に考えるという目的ではなく、あくまで法律・政策や社会規範から、差別と区別にどのような線引きを行ったらよいか?という問いを考えることを目的としています。
1. 被害者がマイノリティ(在日コリアンのAさん)で加害者がマジョリティ(日本人のBさん)であったとしても、それが差別であるかどうかは、それだけではわかりません。したがってこれの情報だけでは×(あるいは○とは言えない)、となります。
つまり差別とは、マジョリティがマイノリティに加えた人権侵害であれば何でも差別であるというようなものではない、ということです。
では、何が差別を区別から区別するのでしょうか。
2. 暴行事件としては上の1.と同じです。しかし、「Bさんはその時「反日韓国人!」と叫んでいた」という条件がついています。この条件が加わることから、このケースは差別だと言えます。
なぜでしょうか。それは、①出自にまつわるグループ(韓国人)への②不平等につながる目的または効果を持つ(人種差別撤廃条約第一条)と考えられるからです。
念のためもう一度人種差別撤廃条約第一条を再掲します。
「この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先〔①グループにまつわる〕であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果〔②不平等〕を有するものをいう。」(人種差別撤廃条約第1条1項(外務省公定訳http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html#1より引用)
ここで考えたいのは②不平等とは、「目的又は効果を有するもの」という定義になっている点。つまり加害者が明確な「目的」を持っている場合が差別であることは当然として、「目的」を持たない(あるいは立証できない)場合であっても「効果」だけあればそれだけで差別になる、ということです。
この2.では、加害者のBさんが「反日韓国人!」と叫びながら在日コリアンのAさんに暴力を振るいました。ここからBさんが「在日コリアン」を攻撃する(あるいは貶めるなり不平等に扱う)という「目的」を持っていた可能性があります。つまり、この暴行事件は上の1.のように単なるBさんのAさんへの暴行事件とは異なり、Aさんが在日コリアンの一員であるからこそ引き起こされた(さらには一層激しくなった)と考えられる。これが①出自にまつわるグループを②不平等に扱う目的を伴っていたと考えられる場合です。
そして前述の通り、上のような目的を持たない場合であったとしても、効果は伴いますから、やはり差別です。つまり「反日韓国人!」と叫びながら暴行すること自体が、①コリアンという民族的グループへの②不平等を助長・煽動する効果を発揮します。だから差別だと言えます。
3. これも暴力事件としては1.とも2.とも同じですが、今度は被害者が日本人C(マジョリティと考えられる)です。しかし、たとえ同じ日本人(B)から日本人(C)への暴行であったとしても、「Bさんはその時「お前は反日韓国人と同じだ!」と叫んでいた」ことからこれは差別です。①出自にまつわるグループ(韓国人)への②不平等につながる目的または効果を持つと考えられる(同第一条)点で、2.と同じだからです。
京大の受講生の回答のうち、この3.の正答率が最も低いという結果となりました。やっぱり日本人が日本人に害を加えてもレイシズムになる、ということは、日本社会ではあまりなじみがないのでしょう。
しかし、この3.のような、日本人が日本人を襲撃するレイシズム事件は実は、頻発しています。最も深刻な実例の一つが、2010年に4月に在特会というレイシスト団体(「在日特権を許さない市民の会」)らが、朝鮮学校を支援したという理由から徳島市の日教組事務所を襲撃した事件があります。この事件は事務所に十数人が乱入し、「女性書記長の名前を連呼しながら拡声機で「朝鮮の犬」「非国民」などと怒鳴り、その動画をインターネットで公開」するなどしました。被害者が起こした民事訴訟の高裁判決が2016年4月25日に下りましたが、「在日朝鮮人に対する差別意識を有していた」と指摘した」だけでなく、「在日の人たちへの支援活動を萎縮させる目的があり、日本も加入する人種差別撤廃条約上の「人種差別」にあたる」と判断し436万円の賠償を命じています(「在特会の県教組抗議は「人種差別の現れ」 高松高裁判決」(朝日新聞2016年4月26日http://www.asahi.com/articles/ASJ4P6QCWJ4PPLXB00V.htmlより)。
ほかにも2014年2月にはJR川崎駅でヘイトスピーチ街宣に参加した人物が通行人を模造刀で斬り付けた事件が発生したり(神奈川新聞http://www.kanaloco.jp/article/147628)、2016年3月20日には川崎駅前で維新政党・新風の街宣に抗議していた市民にヘイトスピーチ街宣を12回主催している人物らが集団暴行を加えた等の事例があります(神奈川新聞http://www.kanaloco.jp/article/160755)。
さて、上の1.2.3.から言えることは何でしょうか。
1)マジョリティによるマイノリティの人権侵害だったとしても、それが差別であるとは限らない(1.)
2)マジョリティによるマジョリティの人権侵害だったとしても、それは差別である可能性がある(3.)
ということです。
私が強調しておきたいことは、2)の実践的な重要性、つまり日本人による日本人へのレイシズムの重要性です。
つまり①グループにまつわる②不平等としてのレイシズムは、
(1)マイノリティだけを破壊するにとどまらず
(2)マジョリティをも破壊する、ということです。なぜならレイシズムによって不平等に扱うことが正当化されてしまう人種/民族的グループであるとみなしさえすれば、相手がマジョリティであろうと誰であろうと不平等に扱うこと(ひいては破壊すること)が可能になる/正当化される、からです(要は「在日認定」など)。
ここからレイシズムが文字通り、
(3)社会そのものを破壊する
ベクトルを持つということが論理的に理解できるはずです。
先ほど日本人による日本人への暴行事例を挙げましたが、じつはほかにも頻発するヘイトスピーチが、マイノリティだけでなく、反原発運動・平和運動・沖縄の米軍基地反対運動からSEALDsに至るまで、いまの日本社会で少しでも人権や民主主義を守ろうとする運動(団体も個人も)をターゲットにするようになっています。しかしこれは社会を破壊するレイシズムの論理からすれば不思議でも何でもないのです。
まだ先があります。グループにまつわる不平等を正当化するレイシズムは、いざという時に、同じ人間を、生きるべき者と死ぬべき(殺すべき)者とに分断する機能を発揮します。レイシズムが激化すれば暴力に、ひいてはジェノサイドに行き着くのは、この機能に関係しています。だからこそレイシズムはあらゆる国家・社会が闘って撲滅するよう人種差別撤廃条約によって義務付けられているのです。日本は30年遅れて95年に批准しましたが、いまだ差別禁止法をつくりません。これが、自分たちもやってもやらなくてもよいほど適当で軽いノリで行われる、根性のない「素人」が遊び半分で頻発させてきたヘイトスピーチ街宣でさえ、ほとんど対処できずにきた最大の理由の一つです。
では、このような差別にどのように対処すればよいのでしょうか。
大前提として、差別禁止法をつくる必要があります。それは何度も繰り返した通り、
①出自にまつわるグループへの、②不平等(という人種差別撤廃条約第一条の定義)
を法律や制度によって規制するということです。
人種差別撤廃条約第一条に照らした差別(レイシズム)の定義を日本の国内法(やそれに準ずる社会のあらゆるルール)づくりに導入すること。これが日本社会で差別をなくす第一歩です。
ただし、この差別禁止というある意味で消極的なやり方だけでは差別をなくすことはできません。そのことについては次回また書きます。